これは前編の「事業再建、経営再建を任されたら」の、どうやって事業総括をやるかの実務編です。担当顧客の会社分析にも使えます。
【1】経験談からの反省
経験談は現実味があって真実ゆえの説得力もあるのですが、如何せん失敗談の末の成功というケースが多いので少々遠回りです。前編でその部分は含めたので、ここではエッセンスに絞ってもう少し普遍的に使えるように、少し時間をおいて頭の整理がついた段階での経験だけにとらわれない実務的なツールとしての提案をいたします。
【2】会社の外形を掴み内実に迫る
無鉄砲に現場へ走る前に、どの方向にどれくらいのスピードで走ればいいかを決めるのは、トータルのロードマップを考えた時に非常に重要です。誰も無尽蔵にエネルギーがあるわけでないので無駄足を踏まず、後戻りなく、ある意味省エネ運転ができればそれに越した事はありません。私の現場談はちょっと特殊なケースでした。普通はどんな会社も財務諸表や分析資料は概ねアップデートされているし、スタッフもそれなりに揃っています。まずはそれらを使って、該当する会社のいわゆる「外形」を掌握します。個別事象から入らず、上から目線で俯瞰するのが結局近道です。その中で自然と細かい内実に迫っていきます。
[1]過去をトレースし、経営を見える化
そんなことは分かってると言われてしまいそうですが、「今の課題、未来のヒントは過去に学ぶ」です。どっかで聞いたようなフレーズですが、過去を丹念にトレースするだけで色んな事が見えてきます。超具体的には「PLとBSの横計」です。できれば過去10年のデーターを横に並べましょう。
まずPLは売上から粗利、経費、営業利益、経常利益まで年度で縦に集計してあるものを、横に10年分エクセルでコピーして並べていくのです。これだけで「会社の10年の外形」が理解できます。次にBSも上半分が資産、下半分が負債の年度表を横に10年並べます。会社のお財布の変遷が見えてきます。
PLのポイント
1)売上げ:会社は成長、停滞、下落しているのか、急増・急減時は何があった、稼ぎ頭の商材は
2)経費 :その売上げのためにいくら必要か、安定しているか、歪なものはないか、人件費率は
3)粗利 :経費をカバーできる額があるか、業界の粗利率をクリアしているか、稼ぎ頭の商材は
4)営利 :黒字、赤字、Bイーブン、損益分岐点は、10年累積額は
BSのポイント
1)現金 :実額幾らか、累積成長か、食い潰しか、当月・先3ヶ月支払可能か
2)在庫 :基準在庫超過になってないか、滞留在庫がないか、
3)売掛金:回収サイトは、滞留債権はないか、焦げ付きはないか
4)買掛金:支払サイトは、現金とのバランスは、
5)借入金:返済目処の立っている額か、債務超過体質になってないか、
これらが全てではありませんが、この会社は継続可能な優良会社、テコ入れが必要な懸念会社、赤字に陥っている課題会社、緊急支援が必要な問題会社、等々の外形を明らかにし同時に作業を通じて得た情報で内実も掌握していきます。
[2]社員との会話で経営の行間を深掘り
これを或る程度やったら、疑問に思っていることを各職能のリーダー並びにスタッフと会話で裏取りしておくことは非常に重要です。また最初の会話が一番真実を聞ける重要なチャンスなのでタブーにされている事案の洗い出しには持ってこいです。例えば「2015年に利益が急に上がってるけど、特殊事情があったんじゃやないの?」とスタッフに聞いてみると、「そうライセンス訴訟に勝訴して臨時収入が・・・」など絶対に財務諸表には出てこない史実が出て来たりします。また旗艦商材の重要部品の調達がサプライチェーンのトラブルで先4ヶ月見えない等々、こうやって会話での事実確認を積み上げて行くうちに、更にはっきりと会社の外形が浮き上がって見えてくる様になります。また多くの情報交換を通じて内実も結果として見えてきます。
[3]ビジネスモデルの理解
メーカーなのか、商社なのか、サービス会社なのか、会社の外形を知る上でビジネスモデルの理解は必須です。仮に自分の経験や専門領域でない場合でもその中身を理解する努力は欠かせません。商材・サービスの経験でパーフェクトな人はなかなかいませんが、カンのいい人はそれでも外形を掴んでいます。いくつかの切り口を示してみたいと思います。
メーカーの場合
1)どのような技術リソースをベースに製品開発をしているか(電気、メカ、ソフト、ケミカル等)
2)生産体制はどうか(自社生産、EMS委託生産、日本製、海外製、リードタイム、調達のサプライチェーン等)
3)販売体制はどうか(BtoB、BtoC、代理店営業、直販営業、法人営業、システム営業、海外営業等)
商社の場合
1)どのような商材で販売しているか(民生品、工業品、医療機材、農業資材、部品部材、ライセンス等)
2)仕入れ先はどうか(大手メーカー、中小企業、海外EMS、農家、ソフト会社等)
サービス会社の場合
1)サービスの形態は(フィールドサービス、引取修理、コールセンター、受託修理、ソフトウェア提供等)
2)オペレーションの形態は(自社人材、外部委託、他社提携、産官学提携等)
【3】再建プランに向けた人心掌握
外形が分かってある程度内実も見えてくると、更に内面もという事になります。結局経営は人、モノ、金、という事で人に行きつきます。事業統括の一部として「人心掌握」は欠かせません。これを経て「後継人材の見極め」につながって行くのですが、ではどうすれば人の心を掴めるのでしょうか。ただ面談すればいいというものではありません。やはり一連のプロセスがあります。
[1]職務分掌と役割分担の明文化
最近でこそジョブ型ということで職務分掌を明確にする企業風土が根付いてきたように思います。欧米では当たり前のように「Job Description」という言葉が日常会話にあり、採用の際にもこれが提示できないと雇用契約に至りませんし、そもそも給与は仕事に付いているのでサラリーが決められないことになります。
まず個人の職務分掌を書類で明確にし、できれば当人の職務はチームの中でどういう役割分担になっているかという職務分担表を明文化しておく事が肝要です。モチベーションのベースになるものです。
[2]個人面談の実施
そして初めて個人面談に至ります。職務分掌と役割分担表を基に、チームの目標達成に向けた当該個人の目標設定を書面で行います。その上でモチベーション醸成のための四方山面談が始まり当該個人とチームリーダーががっちりとコミュニケーションできる関係になります。当面の目標達成のみならず、昇格・昇給という本来的なモチベーション維持・アップにつながる中長期の目標共有が最終的な目的です。
[3]組織の見直し
本格的な組織再編は再建プランに織り込みます。ここでは組織の課題、どうすれば目標達成に向けて最善の組織となるかの見極めを行います。ポイントは「属人性と機能性のバランス」です。よくあるパターンは、仕事が人につき過ぎて機能的に仕事が進まないとか、機能性を追求し過ぎてセクショナリズムが強すぎる等です。組織再編は人の気持ちを新たに方向づける大きな刺激策となりますので属人性をどこに残して、どの機能性を高めるか事前に見極めておきます。
[4]同じ目線での歩み寄り
人心掌握の一つの経験則として、「職場での当該人材の課題を同じ目線で解決に当たる」事があります。まあ短くして「同じ目線で解決」となります。例えば営業数字が上がらない当該人材と、顧客分析を一緒にやる、課題を言い当てて目を合わす、自分の課題と思って解決まで寄り添う。大変な作業ですが、押さえたいと思った人材にはこれまでこうやってアプローチしてほぼ間違いなく人心掌握をしてきました。人それぞれのやり方がありますが、参考にして貰えればと思います。

【4】再建プランに向けて
事業の総括がやっとこさできましたら、それをもとに「再建プラン」の策定です。どの方向に会社を持って行くのか、実行可能性のある計画に落とし込み、時期を明示したロードマップを作り込みます。これを社の総意となるよう稟議決裁の承認プロセスを経て「再建プラン」の完成です。続編で再建プランについての実務編も紹介して参りますのでよろしくお願いします。
事業の総括は、
- 会社の外形を掴みながら内実も把握
- 人心の掌握を行う
そして「再建プランの策定」に結びつける


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