人事異動の季節です。会社で職場を去ろうとされている方、仕事の引き継ぎはちゃんとやってますか?仕事のやり方や環境がどんどん変わるご時世で、仕事の引き継ぎの仕方も当然変わってくるはずです。現代に求められる仕事の引き継ぎの指南書を書いてみました。
そもそも仕事の引き継ぎとは
職場異動が決まると期日までに自分の仕事をまとめて後任に引き継ぐ。当たり前のことですが、一体何のためにやっているのでしょうか。自分がこれまでやってきた仕事を最低限止めないための業務運用やスキルを後任者に伝えること。それによって組織や会社に損害を与えない、リスクを回避する、信用を失わない、時間資源を無駄にしない等守りの意味合いが強いと思います。職能によって様々ですが例えば、研究成果を引き継いで目標達成の道筋を壊さない、製造工程を継承して品質を落とさない事故を起こさない、顧客の信用を繋いで売上げを減らさない等が考えられます。医療現場や、危険な現場仕事の職場では更に守りの姿勢が強くなると思います。つまり現状を守るのが引き継ぎです。
引き継ぎの実態
時々、「引き継ぎなんて要らない、後任が考えてやればいい!」と豪語する人を見かけますが、当人はそうでも周りで結構迷惑なことになる可能性が高いのであまりお勧めはできません。しかしこの結構迷惑な事が職場では増えているのでは無いかと思います。終身雇用が崩れ、転職が普通になり、職場を守る意識は確実に下がっています。またDX/AIの流れで仕事のプロセスや組織も変わるので、職場間の業務運用やスキルも古びたものになりがちです。更には人手不足で引き継ぐ用意はあっても引き継ぐ人がいないケースも増えています。こうなると運用やスキルだけでなく組織を動かす一番大事な行動原理まで失われかねません。現実には同じ部署の人、関連部署の人が頑張って陰に陽に支えているケースが多いのだと思います。
本来引き継ぐべきもの
企業組織は生成発展してこそのゴーイングコンサーンです。つまり付加価値をつくり続けてナンボです。そのためには「失敗はしても後戻りはしない」事が大事です。この後戻りしてしまうかどうかが、引き継ぎと大きく関わってきます。少し架空のケーススタディーをやってみます。
Aさんは3年間今の職場で営業職に携わってきました。3年目にしてようやく販路再編の機運を見出し具体的な施策も頭の中でまとまってきました。ところがまさかの異動です。健康上の理由で職場を離脱せざるを得ない先輩のピンチヒッターで白羽の矢が立ちました。よくあるやむを得ない異動です。さてここで現在の営業職の仕事の引き継ぎが必要です。顧客との年間契約、受注進捗、決済事案等、いわゆる守りの引き継ぎは後任者Bさんに上手くできました。しかしAさんが温めていた販路再編の構想は、引き継ぐ時間もありませんでした。この先5年の販売の中核を築けたかもしれなかったと思うと残念でなりません。
このケースで本来引き継ぐべきものは、「販路再編の構想」です。これがバトンタッチできていれば企業組織は後戻りをしません。「Bさんも多分それはそのうち気がついたよ」という向きもあるかもしれませんが、Aさんが3年がかりで辿り着いた構想はやはり一朝一夕では難しいでしょう。仮にAさんがこの構想を計画書にしていたとしても、この構想に至る「思考の引き継ぎ」「失敗談含む経験の引き継ぎ」が実は一番大事なのです。
将来のための過去歴レビュー
経営管理の手法として、過去の履歴をレビューすることで現在の立ち位置を理解し更には将来の展望をつくりあげるというものがあります(参照:経営管理は自分で見える化)。少々大仰のようですが、これは企業組織のあらゆる階層に於いても当てはまることで、過去に学ぶことが一番の近道である事が往々にしてあります。引き継ぎに於いては、この過去歴にあたる自分の仕事史をどうやって見せるかがポイントになってきます。つまり自分の見ている景色とほぼ同じものを後任者が見れることによって、「思考の引き継ぎという伝言ゲーム」が高い精度で完遂します。もちろん業務や運用の引き継ぎについても自分の仕事史を見せることは同じ効果が期待できます。
具体的な引き継ぎ手法
では具体的にはどうやればいいか、私になりに経験してきたことをベースに下記にまとめてみました。
担当期間中の決裁書、稟議書を全部アウトプットする
決裁書は自分の思考プロセスの宝庫です。いかにそのテーマを考えたか、どのように組織から承認されたか、組織の一つの総意を作り上げた立派な履歴です。これが思考の引き継ぎに役立ちます。
プレゼン資料も全部アウトプットする
重要会議等、多くの人を集めてプレゼンした資料、キックオフ会議とかサービス会議とか、自分が他人に対してどのように公言したかの重要な履歴です。これは決裁書が比較的社内向けの思考が中心なのに対して、外部へのメッセージ特に顧客、調達先、関連会社との関係も景色として見えてきます。
決裁書、プレゼン資料をテーマごとに整理
経営、人事、開発、製造、営業、サービス、業務、のように職能別・ジャンル別にこれらの資料を分類して整理します。これを行うだけで思考の整理はほぼ完了です。
成功談、失敗談のまとめ
自分の思考の履歴が具体的にジャンル別にまとまっています。いろんな記憶が蘇ってくると思います。1行でいいのでそれぞれに成功したこと、失敗したことをメモしていきます。殆どの人が記憶に埋もれたままになっている事を会話で引き出せるようにメモで可視化しておくのです。
知・情・意 揃った後任者との引き継ぎ会議
必ず相対で話せる時間をとってください。思考の引き継ぎは生のコミュニケーションの上に成り立ちます。ポイントは自分の見ている景色とほぼ同じものが相手にも見えるようにすることです。ここは「知・情・意」の三つが揃う場です。この三つが揃うことで揺るぎない人間同士の関係性が構築され後戻りのない引き継ぎ期待できます(参照:プレゼンテーションを得意分野にする)。
ルーティーンを外さない
引き継ぎの最低限の目標である「現状を守る」ための業務・運用の引き継ぎ、また管理者であれば、部下の人事や評価に関しての引き継ぎはルーティーンとして抜かりなく行いましょう。
引き継ぎ不要のもの
消えゆく事業、やり方を変えるべきビジネス、新規性を求められるプロジェクト等は、引き継ぎたくても求められていないちょっと辛い仕事です。しがらみを産むようなもの、負の遺産は敢えて引き継ぐものではないと思います。しっかりお片づけして、新しいものを創っていくために、ここはメリハリをつけるのがいいでしょう。
引き継ぎは思考のバトンタッチ
業務・運用の守りの引き継ぎから大きく話が飛躍した感がありますが、スキルはどんどん変わるのでやはり考えを如何に伝承するかが非常に重要だと思います。ビジネスに於ける究極のプレゼンテーションとも言えるかもしれません。バブルが崩壊して、リーマンショックで打ちのめされて、コロナで翻弄されて、DX/AIの中で随分仕事のやり方が変わり、この流れはそれこそ後戻りはなさそうです。ホワイトカラーの単純労働は間違いなくAIに置き換えられ、ブルーカラーの仕事も人型ロボットに置き換わる時代がそこまできています。そういう時代だからこそ、人間オリジナルな考えをしっかりバトンタッチして、後任者に何かしら新たなことに気付いてもらい、企業組織を生成発展させる、そういう仕事の引き継ぎがますます重要になってくると思っています。
仕事の引き継ぎは、業務・運用スキルの継承に留まらない、思考のバトンタッチをすることができるチャンスの場に変えていきたい。

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